ラーメン屋店長、スープを飲まない日本人に号泣「外国人のお客さんは飲み干してくれる。日本人はなんで飲んでくれないの？」

河原さん 「僕が二十歳ぐらいの頃、長浜屋台でよくラーメンを食べていたけど、みんな今よりはるかにスープまで飲んでいたよね。好みにカスタマイズして紅生姜、ゴマなんかをたんまり入れて真っ赤になったスープをグビグビ飲む。そんな豚骨ラーメンの原風景ともいえる自由な文化があった。

その後1985年に一風堂を開いてしばらくはスープまで完食してくれる人は多かったけど、そうねぇ…2000年あたりから女性はあまり飲まなくなってきて、特にここ10年で男性も“スープだけは残す”のが大多数派になってきたかな。健康志向の波の中、ラーメンが表面だけで引き合いに出されることが多くなってきたことにも起因していると思う。“塩分”と“脂”の2つの要素でマイナスイメージをもたれる部分があったから」
――スープまで飲むと“塩分”と“脂”を全部吸収してしまう、というイメージが定着してしまってますよね。そもそもラーメンの完食って、そんなに体に悪いんですかね?

河原さん 「厚生労働省が目指している1日の塩分摂取量は男性7.5g未満、女性6.5g未満で、ラーメンに入っている塩分は店にもよるけど平均6g前後。ウチにもそのぐらい入っている。数字的にはラーメン一杯をスープまで完食すれば、1日のほとんどの塩分を摂ることになるんです。だけどね、みなさん、ラーメンを毎日食べますか? 毎日食べるものでもないなら、せっかくラーメンを食べると決めたならスープまで飲んでください…ってのが正直な気持ちかな」

――余談になりますが僕は仕事柄、20年以上年間300、400杯ペースでほぼ毎日食べ続けてますし、基本は完飲です。でも、健康診断の数値もまったく異常がなくて健康そのもの。僕の体が普通じゃないないのかもしれませんが(笑)。

河原さん 「いや、そうやって最後まで食べてくれるのはありがたいね。なぜなら僕らは『最後の一滴まで楽しんでほしい』という思いで本当に丁寧に作っているし、ラーメンにかかる原価でみてもスープが占める割合が一番多いから、一つの料理として捉えると“スープを残すのはもったいない”と単純に思ってしまうんだよね」

――2008年の「IPPUDO NY」(一風堂ニューヨーク店)を皮切りに海外でも多くの店舗を展開されています。以前河原さんから「海外店やイベントでは、日本に比べスープまでの完食率が高く、廃棄もほとんど出ない」とおうかがいしたことがあります。これはなぜでしょう?

河原さん 「外国人も“美味しい”と感じてくれていることを前提に、簡単にいうと文化の違い。海外でも日本とほぼ同じスープの量なんだけど、彼らは本当によく飲んでくれるね。理由としては、ラーメンはもちろん麺料理なんだけど、海外では“スープ料理”として捉えられている部分も大きいからなんだよね」
――ラーメンはスープ料理。たしかに。

河原さん 「もともと、スープをよく飲む文化が根付いているから、“スープ料理はスープをより味わいたい”と考えるのは当たり前。こんなことがあったな。海外初出店であったNY店の当初は、お客様に〈麺が伸びる〉という感覚はまだないから、ラーメンが卓上に来てもおしゃべりに夢中ですぐには食べない。ようやく食べ始めたと思ったら、最初にスープだけをほとんど飲む。最後に汁気の少なくなった麺を食べる。そんな光景をよく見たよ。

僕らはその頃から『zuzutto』という海外でのプロジェクトを立ち上げて、『スープが絡んだ麺を“ズズット”啜る喜び』『麺が伸びる前にスープと共に楽しむこと』など、いわゆるラーメンの楽しみ方を伝えてきた」
https://qualities.jp/article/kawahara-souproject